2022-07-10 55年ぶりに『73光年の妖怪』(F.ブラウン)を再読した ---あらためて読むと素晴しい倒叙ミステリーだった

食事、コンピューター、インドネシアについてのひとり言。 ときどき人類学なども。

[2022-07-10] 55年ぶりに『73光年の妖怪』(F.ブラウン)を再読した —あらためて読むと素晴しい倒叙ミステリーだった

ぼくの住んでる市が電子図書館を開始していた。 さっそく利用を開始した。 借り出した内の一冊がフレデリック・ブラウンの 『73光年の妖怪』だ — (最初に読んだSFではないかもしれないが) 5番目くらい迄には入っていると思う。 おそらく中学生のときだ。 冒頭にとんでもなくエロティックな部分があって、 それだけで頭がクラクラして、 筋をまったく覚えていない。 隠れて、その部分だけを何度も読んだ覚えがある・・・。

さてさて・・・

50年以上たって「エロティックな部分」を読み返してみると、 まったく何でもなかった。 いったい「ちゅうに」の僕は何に興奮したのだろうか?

物語は73光年の彼方からやってきた (流刑にされた)「知性体」と、 地球の科学者(「博士」と呼ぼう)との知恵比べである。 筋の展開の中に知性体側からの描写が挿入され、 彼(?)がなぜここに来たのか、 いま何を目標にして行動しているのか、 彼の特別な能力(動物に憑依できること)、 そして(もっとも大事なことなのだが) 彼の弱点(その能力のさまざまな限界)が 読者に知らされる。 推理小説でいえば、倒叙ものである。 博士がコロンボとなって、 一連の奇怪な事件の背後に一人の犯人がいるということを (もちろん読者はすでに知っている)、まず、 推理する。 さらに、彼は、 読者にはすでに知らされている 知性体の目的、 行動原理(何ができて、何ができないか)を推理していくのだ。 推理がいささか飛んでおり、 御都合主義的に的中するのだが、 そこは倒叙の利点で、 推理のジャンプは気にならないのだ。

コロンボと違い、 博士は絶対的な優位には立っていない。 推理が遅れると自分が殺されてしまうのだ。 知性体の矢継ぎ早の攻撃、 それをなんとか避けながら、そして 眠気に絶えながら、正解を考えつづける博士、 「勝つのはどっちだ!」・・・ 「手に汗にぎって」最後まで読んでしまった。

ドラマツルギーの文脈でいうと、 博士の助手となるオールドミス、ミス・タリーがとてもいい。