2022-11-09 『金魚繚乱』(岡本かの子)読了

食事、コンピューター、インドネシアについてのひとり言。 ときどき人類学なども。

[2022-11-09] 『金魚繚乱』(岡本かの子)読了

崖の上の邸宅にすむ美少女真佐子、 崖の下の金魚屋のあと継ぎ、 復一の不思議な恋物語だ。

復一が、 おやと思うとたんに少女の袂の中から出た拳がぱっと開いて、 復一はたちまち桜の花びらの狼藉を満面に冠った。 少し飛び退って、 「こうすればいいの!」少女はきくきく笑いながら逃げ去った。

いくつかの花びらが復一の口の中にはいた。 復一はぺっぺっとそれらをはいたのだが、 上顎の奥にはさまっていつまでも除くことのできない一枚があった。 復一は、この後何度も、 この花びらの感触を思い出すこととなる。

幻の世界に生きている、 現実にすこしだけ顔をだしている真佐子と、 幻の世界だけに存在する金魚、「赫耶姫(かぐやひめ)」との 重ねあわせが美しい。

和金の清洒な顔付きと背肉の盛り上りを持ち 胸と腹は琉金の豊饒の感じを保っている。 鰭は神女の裳のように胴を包んでたゆたい、 体色は塗り立てのような鮮かな五彩を粧い、 別けて必要なのは西班牙の舞妓のボエールのような斑黒点がコケティッシュな間隔で振り撒かれなければならなかった。