2020-09-03 [News] 「Cabal を止めろ!」 QAnon という陰謀論運動はいったい何なのだ? ---陰謀論は、われわれが進化の代償に手に入れてしまったものなのかもしれない

食事、コンピューター、インドネシアについてのひとり言。 ときどき人類学なども。

[2020-09-03] [The Sydney Morning Herald]
原題は: ‘Stop the cabal’: What is the conspiracy movement QAnon? タイトルにある Cabal というのは、 Qanon の陰謀説の中で中心的役割を担う “Deep State”(国家の中の国家?)で、 オバマ、民主党、ハリウッドのエリートなどによって 構成され、 アメリカをあやつっている組織だ(という)。 それは小児のトラフィッキングをもおこなっている悪の組織だ。 2016年、この悪の組織に対抗すべく トランプが大統領候補として送り込まれた・・・という。

・・・いったいこんな話を誰が信じるのか・・・ と思うだろうが、 なんとま・多くの人が信じているのだ。 (クリップした新聞はオーストラリアの新聞である; オーストラリアにも信者がいるのだ!) 「人類学の自然化」のいい研究対象になるかもしれない。 以下模擬演習。

その1 — 感染の仕方について。 あまりに荒唐無稽で、 このミームの「適応」(どんな意味にとろうが)について 考えることはできない。 ならば、中立説だ! もしギュリックやライト風の中立説が正しければ、 集団が小さければ、 適応と関係しない性質もまた集団内にひろがることになる。 ・・・ 残念ながら、集団は異様に大きい — この説はネットを通じて広がっているのだ。 中立説の議論をそのままもってくるわけにはいかない。

その2 — 説明論として。 言語を教える際に、 霊長類と人間の子どもとの差は、 推論しようとする意欲であると言われている。 記憶力に関しては霊長類のほうが強いという。 霊長類は数多くのデータを(たぶん人間よりも多く) そのまま記憶できる。 人間の子どもがするのは、 データすべてを記憶するのではなく、 その中に何らかの規則性を見出そうとするのだそうだ。 (『ことばの発達の謎を解く』 (今井 むつみ 2013)、 研究会での浜本さんの発表) 人間の子どもがかくして言語を学べるのだが、 霊長類は言語の真似しかできないことになる。 子どもたちは、 少ないデータから(かなり危険な)推論をするわけだ。 そして、間違えれば、彼らは違うルールを適用するのだ。

これってアブダクション(パース)だよね! (ちなみに、 多くのデータから(かなり安全な)推論をするのが 帰納(インダクション)である。)

言いたいことは、 人間の進化(言語獲得)にはアブダクションが 深くかかわっているのだ、ということだ。

さて、話を戻そう。 陰謀論である。 陰謀論も、 すくない事実からパターンを導きだすという意味で、 アブダクションである ・・・たぶん・・・。

つぎにすべきなのは、 陰謀論はなぜよくないか・・・なのだが・・・ ぼくにはどうやってそれを証明するのか、分からない。 陰謀論がなぜよくないかを説明する難しさは、 もしかしたら、 疑似科学がなぜニセなのかを説明する難しさ (cf: 『疑似科学と科学哲学』 (伊勢田 哲治 2003)) に繋がっているのかもしれない。